剣道具師の思い出話「剣道具制作について」
剣道具制作に必要不可欠なもの、先ずは材料
面・甲手・垂 共通材料は
①紺反
綿100%の藍染の布地
②皮革
普及品では30年ほど前は主に牛革鞣しの黒、近年は人工の鹿革もどきのもの、中級以上は紺革(鹿革を藍染めしたもの)
③刺地
紺反を藍染糸で差し込んだもの。
近年は刺地を刺す刺し子がいないため、織刺地を使っていることが多いです
④布団部位の芯材料
ミシン刺の場合は厚物を縫う都合上、針が結構な太さでないと縫えないため、限られた材料になります。
その昔はすべて手刺しであったため、毛氈(もうせん)または代用として
羊毛100%の毛布、純綿のわた、和紙、糊などでした。
*** 面の作業について ***
竹刀が当たる箇所には「面帽子」と言って刺地または皮革を使います。
縁は牛革、人工鹿革、鹿革を使用します。
突き部位は「顎(あご)」と我々は言いますが、普通は皮革を使います。
顎も普及品と中、上級品では材料が違ってきます。
布団と顎が決まると「内輪」と「天地」です。
内輪の表(おもて)は普及品では紺反、中、上級品は別珍。(お客様の好みによっては肌さわりの関係で紺反にされる方も居られます。)
中身は綿(わた100%)のみです。
面金は、昔は鉄面と洋銀でしたが、重いことから最近では普及品にジュラルミン、中、上級品にはチタン製が使われています。
面金には藁(わら)を麻紐で固く巻きます。最近は麻紐の入手が難しくなりつつあり、代用に汗に強いビニール紐を使用することがあります。この作業を我々は藁巻き作業と言っていますが、ただ巻くのではなくお客様の顔の寸法と形を頭に入れて作業をします。
この作業について一例を記します。
例)大きい顔の場合
特別に大きい顔の場合は面金自体を大型面金にします。そこまでではない場合は藁(稲の穂の数)を増やし太くして、少しでも外形を大きくすることにします。また、その太さにも限度がありますので、直接に顔に当たる内輪にも細工をします。詳細について記しますと長くなってしまいますので今回はここまでとします。
藁巻きの後は「肌巻き」と言って、
・「顎」の取り付け
・「面縁皮(生皮)」の縫い付け
・「天地」の縫い付け
・「内輪」の取り付け
・「面布団」の縫い付け
がすべて関わります。
元の元になるのが肌巻きの布になり、汗に強く縫い糸をしっかりと受け止める布地が求められます。私は10号帆布を使用しています。
以上は欠かせない作業です。その他の作業は装飾の作業です。
*** 面の装飾の作業について ***
図柄の型を起こして、かがり糸、蜀江糸を施していきます。(かがり糸は飾り糸と言われる方もいます。)
かがり糸は、面の場合は面布団と顎に施します。
蜀江糸は顎の蜀江や碁盤目刺し、面布団の「耳革」の縁取り、「天地」の装飾等です。
凡その作業を申し述べましたが、甲手、垂、胸と面の作業で大きく異なる点は、甲手、垂、胸は作業を途中で止めて翌日に続きをすることが可能ですが、面の場合は下準備までは他と変わりないのですが、仕立て作業に入ると途中の中断はできません。生皮(面縁皮)の乾きの関係で一機の作業が必須になります。この点が特異な作業になります。